記憶の底を徘徊する @ Prowls

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Los Angeles Free Music Society (LAFMS) 脈中から、フシギにダークで重厚な音楽が登場した。
スメグマのロックンロール・ジャッキーがかつて結成していた、フィメール・トリオが残したアルバムだ。
LAFMS に属するスメグマは、種々の音楽を雑食し唯一無比の自由音楽を創生する即興集合体である。
彼らは 1973 年にカリフォルニア州パサディナにて発生し、1975 年にオレゴン州ポートランドへ移住してしまう。
面白いことにポートランドに移住後 LAFMS の存在を明確に意識し、現在まで重要な構成員として活動して来た。
そこでは当初、ジュ・スク・リート・ミートと Dr. id (マイケル・ラストラ) が音楽的中核を構成していたのである。
そんな情況のスメグマに対して、1980 年代の前半に参加して来たのがジャッキーなのであった。

彼女はカリフォルニア州オークランドの出身だったが、やはりポートランドに移住して来た。
そしてスメグマとは別のユニットで、実験的側面を持つパンクの様な音楽を創生していたのである。
ヴォーカリゼーションを軸に演奏を行う彼女は、スメグマへの参加後すぐに核メンバーと成った模様だ。
やがてはジュ・スクを生涯の伴侶として、それこそ日常的に独特の聴覚および視覚芸術を創生して行く。
さて、1991 年にスメグマは "Oblivionaries" という名の素晴らしい VHS ビデオ・アルバムを出版している。
『忘却』 を意味する "oblivion" を冠したこの作品の前後に、ジャッキーはオブリヴィアを名乗り始めた様だ。

そんなジャッキーとジュ・スクは、スメグマでの活動とは別途にデュオとして音楽を共同制作していた。
2008 年に彼らはザ・テンセズと言うユニットをするが、元は 1980 年代から日常的に協働していたのである。
そして、彼らはまだ正式なユニット名を持たない時代から様々な音楽家との間で協働を積極的に行っていた。
さらにジャッキーは単独で、スメグマおよびデュオ活動と並行し他者との協働を行うことを厭わなかったのである。
そんな彼女が 2007 年にオレゴン州ポートランドで結成していたのが、このプラウルズ (Prowls) なのだ。

日本語で 『徘徊』 を意味する "prowl" を名乗るのは、ポートランド在住のアマンダとケイラを含む女性トリオだ。
残念ながら現在はもう活動していないのだが、喜ばしいことに彼らはとても興味深い録音を残していた。
そして、2008 年にジュ・スク・リート・ミートがその録音にマスタリングを施してくれたのである。
こうした経緯を経て CD-R 化が行われ、NEUREC からの出版に至ったのがこの作品だ。

このアルバムにおいては、ジャッキーが参加したコラボレーションの中でもとりわけ重厚な音が創生されている。
しかも独特のダークネスが全編を覆い尽くす、言わば記憶の奥底を徘徊し続けている夢の様な音楽だ。
音の像はとても暗い場所で蠢いているのだが、薄闇の中には様々な記憶がはっきりと徘徊している。
既にそれらは自分の記憶なのか他者のものなのかさえ判然としないのだが、奇妙にもなつかしい。
その音を繰り返し聴いていると、やがて意識が少しずつ闇と融合して行く感触を覚えもするのだ。

この魅惑的な音楽を創生するプラウルズのメンバーは、自己紹介の文章を寄せてくれた。
最初はアマンダから、アルファベット順に従って紹介をして頂こう。

「ふいごの音と金切り声、そしてすすり泣き。
私がパフォーマンスで用いる生々しい音のアーカイヴは、これらをヴォイス・レコーダに記録して作ったもの。
複数のプロジェクトで活動して来ましたが、最近のものとしては、エコモルティ (Ecomorti)、
イクスティンクト (XXXtinct)、パープル・パンジー (Purple Pansy) などがあります。
私は危険に晒され絶滅の危機に瀕している国内種生物の声を録音し、それぞれのプロジェクトに使用しました。

オブリヴィアとケイラとのコラボレーションであるプラウルズにおいては、
古臭い 『氏と素性』 に関する映画の獣じみたサウンドトラックを応用しています。
それを用いて、オレゴンに先住する生物の歌声を造りもしました。
十年を超えるとても長い期間にわたり、私の芸術には生々しい実験的音声が付き纏っています。
サイト *www.econoir.org* http://www.econoir.org/ において、さらに情報を開示しています」。 (2009 年 1 月)

次に、ジャッキーはこのように自身を解説している。

「ジャッキー (別名ロックンロール・ジャッキー、オブリヴィア) は、1979 年から音の即興を繰り広げて来ました。
彼女が在籍して来たユニットには、次の様なものがあります。
ガンビー・アンタイクライスト (Gumby Antichrist)、ジ・インプローヴ (The Improve)、バビロン 2000 (Babylon 2000)、
スメグマ (Smegma)、ヴァーミント・コーラー (Varmint Caller)、リプリコック (Replicock)、
ザ・ロドニー・フォレスト (The Rodney Forest)、ザ・テンセズ (The Tenses) など.............。
1992 年から、彼女は主にターンテーブルを用いて来ました。
プラウルズにおいて彼女は、シドラッシ・オーガン (Sidrassi Organ) とターンテーブルを演奏に用いています」。
(2008 年 11 月)

そして、これがケイラによる自己紹介となる。

「私が演奏を始めて、3 年が経ちました。
まるで世界が終る様な、とてもロウ・エンドで唸り砕け散る -- そんな過激な音を好んでいます!
あるいは同室するのもまず耐えられない程の、高周波帯域に存在する音も。
ヴァイオリンの音を加工し、全くそれらしく聞こえない様に拡張してしまう実験を楽しみもします。
サンプル音とライヴ・テープの音声をごちゃまぜにしてしまうことも、私の演奏のキー・エレメントと言えるでしょう。
これまで私が参加して来たユニットには、次の様なものが在ります。
プラウルズ (Prowls)、バッツ・ハートランド (Butts Heartland)、ノイズ・ディヴォース (Noise Divorce)、
アニマル・ライツ (Animal Writes)、そしてキティ・ミッドワイフ (Kitty Midwife)」。 (2008 年 11 月)

もうこのトリオは存在しないが、「プラウルズでの演奏はとても楽しかった!」 とジャッキーは振り返っている。

彼らが出遭ったその時点だけに存在した化学反応の記録は、今聴いてみても実に鮮烈だと思う。

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