隣りの影 @ Chalk & Suzuki / Shadows Go Their Own Way

"Shadows go their own way" は、アンドリュー・チョークと鈴木大介さんの協働新作アルバムだ。
鈴木さんのサイレン・レコーズから、間もなく出版される。
邦題は、『影は気ままに』。
一足お先に拝聴させていただいたが、まるで生活の一部のように聴くことができる。
導入部分で展開される日本語での会話は、麻雀を話題とするものだろうか?
私は麻雀をやらない (その資質がない) のでよく判らないのだが、多分そうなのだろう。
長尺ではない幾つかのトラックから成立するこの作品は、名人芸的でありながら新鮮だ。
肩の力が抜けているようで、コール・アンド・レスポンスは凍てつくように正確で繊細だ。
そしてあちこちに 「ギョッ」 とするような感じが息づいていて、とても良い。

アンドリューのソロよりもミラーを評価するリスナーに、多分本作は向いていないと思う。
「アンドリューはミラーの後、軟弱となった」 と思うならば、このアルバムをパスする方が無難だろう。

ここ何枚かのアンドリューのアルバムと同様、
リスニング・テストとして明快な分岐をもたらすそんな作品でもある。
特殊な情況の下で夜・星・月・海といったものに想いをはせたいなら、他に聴く音楽が在ると思う。
聴く音楽のチョイスは自由だから、迷うことなくそんな音楽を選べば良い。

壮大な夕焼けの様に、見るも見事な光景は日常には確かに在る。
でもアンドリューと鈴木さんが描こうとするのは、ほんのささやかな日常の恩寵だと思う。

先日テレビで 『徹子の部屋』 を見ていたら、小澤征爾さんと娘さんの征良さんが出演されていた。
征良さんの近著 『しずかの朝』 に話が及び、
黒柳さんはどなたか (お名前を失念してしまった) が記されたこんな意味の書評を紹介された。
「この著者は、幸福というものを味わうのがなんとうまいのだろう。
ここに描かれている幸福は決して大仰なものではなく、日常のほんの些細なものだ。
そんな小さな幸福をも、著者は純粋に楽しみ慈しむのである」

この姿勢は、『影は気ままに』 で音が為す所業とオーヴァーラップする様だ。
何気ない純粋さに得難い感動を覚える、忘れ得ぬ作品である。
それでいて、深いサイケデリアの残り香を漂わせている。
かなりの時間を費やし完成に至ったコラボレーションだとも、聞いている。
如何にも気合が込められているように演奏するのはロックが得意とするものだろうし、案外容易いこともある。
音楽も創造されるものより製造されるものの方が重宝がられる、奇妙な時代にもなってしまった。
この作品は、そんな時代の潮流とは対極のスタンスを持つと言って良いだろう。
はて、『スロー・ライフ・サイケデリア』 なんて呼んでしまうと作品の主は困惑するだろうか?

アンドリューと鈴木さんのコラボレーションはどれも、桜林の散策を想わせる。
その桜林は快晴の下にある日もあれば、濃い霧に包まれている日もある。
『千秋』 の様に秋という文字を持つタイトルの音楽にも、桜林の気配は漂う。
尤も、『千秋』 とは何も秋を表すことばではない。
「春の訪れを一日千秋の思いで待つ」 ことも、今の季節には珍しくない。
もう少し経って、花見をしながらこの新作に聴き入るのを楽しみにしている。

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